ヒーローインタビュー

作者:坂井希久子|ハルキ文庫
文庫本裏書
仁藤全。高校で42本塁打を放ち、阪神タイガースに8位指名で入団。
強打者として期待されたものの伸び悩み、10年間で171試合に出場、通算打率2割6分7厘の8本塁打に終わる。
ヒーローインタビューを受けたことはない。
しかし、ある者たちにとって、彼はまぎれもなくヒーローだった―。
書店員の絶大な支持を得た感動の人間ドラマが、待望の文庫化!


様々な人物が仁藤について語るリレー形式でストーリーが進む。
出屋敷商店街で理髪店を営む女性から始まるのだが、なかなか関係性が見えてこず、ミステリアスだ。
だが、様々な人たちが仁藤を語り、彼の人間性が浮き彫りになっていく。
クライマックスに向け、「仁藤がんばれ!」という気持ちになり、盛り上がる。
良い作品だった。

土方歳三(上・下)

作者:富樫倫太郎|角川書店
単行本オビ
幕末の激動を駆け抜けた男の生き様を描いた歴史大作、成長編!
日野の豪農の家に生まれながら、生来の負けん気の強さから周囲の手を焼かせていた土方歳三
ある日たまたま喧嘩の助太刀に入ったことで、勝五郎という少年と知り合う。
これがのちの近藤勇との出会いであった。
勇と話すうち、歳三はある決意を抱く―「強くなりたい。強くなって、必ず武士になってやる」。
勇や沖田総司ら試衛館の仲間とともに過ごし、剣の腕を磨く毎日を送っていたが、京の治安を守る浪士組の結成を持ちかけられたことで歳三の運命は大きく動き出していく。
働きを認められ「新選組」となった浪士組は、尊王攘夷派による大峰起計画の手がかりをつかみ、旅篭・池田屋に踏み込むが―!?
歳三の少年時代から新選組の「鬼の副長」になるまでの成長の日々を、いきいきと色鮮やかに描き出した上巻。


幕末の激動を駆け抜けた男の生き様を描いた歴史大作、死闘編!
池田屋事件によって一躍その名を馳せた新選組
土方歳三は副長として恐るべき統率力を発揮するが、組織のあり方をめぐって内部対立が生じはじめていた。
いっぽう、倒幕派の勢いはますます激しさを増し、鳥羽・伏見の戦い幕府軍が新政府軍に敗北を喫したことをきっかけに情勢はさらに傾いていく。
かつての仲間との別れが次々と訪れるなか、ときに傷つき涙しながらもただひたすらに戦い続ける歳三。
新政府軍に追われ、蝦夷地へと至った歳三は「常勝将軍」と言われるほどの活躍を見せる。
だが、戦況は悪化の一途をたどり、ついに新政府軍による総攻撃の日を迎える。
熱い思いを胸に、前だけを向いて生きた男が最期に見た景色とは―!
新選組副長時代から箱館戦争での壮絶な最期まで、土方歳三の真の姿に魂震える下巻。



土方歳三の生涯を描いた大作で、読みごたえがあった。
鬼の副長と恐れられた土方が、仲間を想い、涙をするシーンは印象的。
近藤や沖田は比較的丁寧に描写されているが、その他の隊員は少し雑。
新撰組を美化する人たちには不満のある作品だと思う。
だが、自分にはこのくらい乾いて、虚無的な方が合っている。


土方歳三 (上)

土方歳三 (上)

死屍累々の夜

作者:前川裕|光文社
単行本オビ
なぜ男は、10人を殺害し、6人の女とともに集団自殺を遂げたのか。
なぜ女は、ただひとり、生き残ったのか。
稀代の惨劇「木浦事件」の1年にわたる経過を追い、謎多き犯人の実像に迫る、圧巻のフェイク・ドキュメンタリー。

1984年7月4日。
本駒込の老舗旅館「はぎのや」を木裏健三がはじめて訪れた。
悪夢はそこから始まり、醒めることはなかった。

0年を経て、なお多くの謎に包まれたままの「木裏事件」。
命を落とした者は20人に迫り、信用に足る証言は少ない。
事件に関連して叔父を亡くしたジャーナリストは、渦中にいながら今もなお生きながらえているひとりの女性の行方を突き止める。
彼女の口から語られた、事件の意外な真相とは―。



木浦健三の経歴は特異で、東京大学助教授をしていたが、ヤクザの大親分の娘と結婚。
だが、新婚まもないころ、妻を殺害して、刑務所に10年以上服役。
出所後、静岡にある実家の売春管理業を受け継ぎ、東京に進出する。
そこで目をつけたのが、老舗旅館の「はぎのや」だった。
経営者家族を騙し、監禁し、次々に殺害していく。さらにその親戚夫婦も殺害。
この作家は不気味な人物を造形するのが上手いが、本作は今まで以上に不気味だ。
ストーリーは過去の事件の描写と、現在生き残っている人の証言で綴られる。
良くできているが、結末があっけなかったな。


死屍累々の夜

死屍累々の夜

偽装 越境捜査

作者:笹本稜平|双葉社
単行本オビ
横浜で起きた殺人事件。
被害者は、警視庁捜査一課の鷺沼が追っていた男だった。
捜査の末、見えてきたのは、一代で財を築いた強力な会長が君臨する大企業の影。
シリーズ史上、最も狡猾で大胆な犯罪を前に、警察は、異例の捜査に踏み切った。
二人の一匹狼が巨悪を斃す警察小説!


「越境捜査」シリーズの5作目。
警視庁刑事の鷺沼と神奈川県警の不良刑事の宮野の軽妙で毒舌に満ちた会話が面白い。
ただ、本作は肝心の事件がイマイチで、5作目にして初めての失敗作だと思う。


偽装 越境捜査

偽装 越境捜査

ダークシティ

作者:永瀬隼介|PHP研究所
単行本オビ
犯罪史上最高額6億円強奪事件発生!!
しかし報道もされず、警察も動かず、襲撃された警備会社は翌日も通常営業――。
東京の郊外で、警備会社からの現金6億円強奪に成功した翔太だったが、逃走中に何者かによって襲撃を受け、仲間が射殺され、現金も奪われてしまう。
一夜明け、からくも逃げ切った翔太が目にしたニュースは、仲間の射殺事件だけで、現金強奪事件の報道はされないまま。
ジャーナリストの級友の力を借り、真相を究明しようとする翔太たちの前に、FBI帰りの謎の男が現れる。
そんな中、また新たな刺殺体が発見され……。
翔太が手を出した「6億円」に隠された真実とは。
闇社会と癒着した刑事、暗躍する新興犯罪集団、すべてを見届けると覚悟を決めた男と女。
欲望と狂気が交錯する街で繰り広げられる超弩級のサスペンス長篇。


32歳のフリーター翔太は、歌舞伎町帰りの元極道の直樹と警備会社に侵入。
数千万円あるという情報だったが、実際には6億円あり、狂喜する二人。
だが逃走中に二人組が現れ、直樹は射殺され、翔太は逃げ出した。
同級生で元記者の涼の元に転がり込み、二人で事件を解明しようとする。
そこに同じく同級生で元FBIで、現在警視庁警部の岩尾が現れる。
翔太が住む絆市は、武闘派ヤクザの龍虎連合が牛耳っており、警察も汚染されていた。
翔太たちが奪った6億円は龍虎連合若頭仁科の金であった。
さらに翔太たちを襲った二人組は「ダークスター」を名乗るギャングであることが判明。
2つの勢力から追われる翔太を盾に、岩尾は二つの組織を潰そうとする。


相変わらずストーリーは面白い。
でも、岩尾に人物的な魅力が乏しく、狂気に満ちた冷酷なマッドスターも結末はあっけない。
作者にしては、少しハズレかも。


ダークシティ

ダークシティ

ブルーマーダー

作者:誉田哲也光文社文庫
文庫本裏書
池袋の繁華街。
雑居ビルの空き室で、全身二十ヵ所近くを骨折した暴力団組長の死体が見つかった。
さらに半グレ集団のOBと不良中国人が同じ手口で殺害される。
池袋署の刑事・姫川玲子は、裏社会を恐怖で支配する怪物の存在に気づく――。
圧倒的な戦闘力で夜の街を震撼させる連続殺人鬼の正体とその目的とは? 
超弩級のスリルと興奮! 大ヒットシリーズ第六弾。


犯人と行動を共にしている男、かつてスパイだった男の行方を追う刑事。
それから現在の事件の進行と、3つの視点から語られる。
殺人鬼の手口は異様で、実際に襲われている描写はかなり残虐。
だが、全身の骨を砕かれ、カバンの中に死体を納めるのはギャグの一歩寸前だが。
中盤に犯人が判明するが、それでも結末までスリル満点。
面白かった。


ブルーマーダー (光文社文庫)

ブルーマーダー (光文社文庫)

風の如く 久坂玄瑞編

作者:富樫倫太郎|講談社
松下村塾に入門したことで、後の傑物たちと出会い、日本の将来について考えることになった平九郎。
だが吉田松陰は処刑される。
師を失った高杉晋作久坂玄瑞、平九郎たちは集まり、松陰の遺志を継ぐことを誓う。
将軍など飾り物に過ぎず、幕府を切り捨てるべきだという極論に彼らはたどり着くが……。
平九郎たちは、日本に新たな夜明けを見せることができるのか。


尊王攘夷から討幕へ至る長州藩の動きを丁寧に描いている。
当初は騎兵隊を作った高杉晋作の方が過激だったが、京にいる久坂も過激思想に染まっていく。
平九郎は英語を学ぶため、江戸に出るが、そこで村田蔵六と出会う。
英語を熱心に学ぶ平九郎に、蔵六は西洋兵学を教え始める。
松下村塾での誓いは忘れていないが、拙速な久坂の行動に平九郎は疑問を持ち始める。
頭がよく、人望があっても戦の才能はないと。
本編は久坂が蛤御門の変で自刃するところまで。
次作が待ち遠しい。


風の如く 久坂玄瑞篇

風の如く 久坂玄瑞篇