ロスト・ケア

作者:葉真中顕|光文社文庫
冒頭、戦後犯罪史に残る大量殺人犯への死刑判決が描かれる。
登場人物たちは、それぞれの感想を持って聞く。


検事の大友は、高齢となった父を高級老人ホームに入居させる。
その際に運営会社「フォレスト」営業部長の佐久間と再開する。二人は高校の同級生だった。
佐久間はこの会社が今後伸びていくと断言するが、その半年後、介護報酬の不正が発覚する。


DVにより、離婚した洋子は故郷のX県に戻り、母と息子の3人の生活を始める。
だが、母が認知症となり、生活が厳しくなっていく。
いつしか母の死を望むようになるが、ある日、洋子が不在の夜に何者かが侵入。
洋子の母にニコチン注射を打ち、殺害する。死因は病死と判断された。
洋子は母が死んだことに驚きつつ、ほっとした。


父の死をきっかけにX県の「フォレスト」で働く介護士の斯波は、薄給ながらも懸命に仕事に取り組んでいた。


不正が発覚した「フォレスト」はマスコミにたたかれ、佐久間は顧客名簿を持ち出し、退職する。
佐久間はクスリの売人と組み、オレオレ詐欺に乗り出す。
預貯金や家族構成がキチンと記されているデータは宝の山で、佐久間はすぐに大金を稼ぎ出す。


斯波は、死にたいと願う老人が月に一度の割合で病死していることに不信感を持っていた。
ある日、死にたいという顧客の自宅の鍵が誰かによってコピーされていることに気付く。
次のターゲットなのではと予想した斯波は、老人宅に張り込むことにした。


介護報酬制度の不備、高齢化社会を描いた社会派ミステリ。
格差社会は高齢者に顕著に現れていることを生々しく描き出す。
犯人は途中からわかるが、結末にどんでん返しがあり、真犯人には驚かされた。
青臭い正義感を振りかざす大友と、彼を軽蔑する佐久間の対比もいい。
人の死とは何か、倫理観まで考えさせる非常によくできた作品だ。感動した。


ロスト・ケア (光文社文庫)

ロスト・ケア (光文社文庫)