作者:吉村昭|文春文庫
作者の初期の短編集。
表題作の「磔」は、豊臣秀吉の切支丹禁止令による26聖人殉教の話。
上方で捕縛された彼らが、長崎で処刑されるために移送されるまでを描いた短編。
棄教を拒否し、片耳を切られるシーンは痛々しい。
さらに迫害を受けながら、上陸した九州では歓待を受け、磔は殉教のイベントとなる。
処刑担当者は、当初寛容な姿勢を見せていたが、盛り上がる処刑地を見て考えを変える。
日にちを前倒しにして、寂しい場所に処刑場を移して、ギャラリーから遠ざける。
残酷さと無常感の入り混じる、重々しい作品。
「三色旗」は、江戸時代に交易を独占したオランダ領事館が、イギリスとの戦争に敗れ、うろたえる話。
「コロリ」は伝染病であるコレラに立ち向かう、明治初期の医者が、誤解から撲殺される話。


それぞれが、やりきれない話だが、そこそこ面白い。
でも、この作家は長編で本領を発揮するのだと認識させられた。