楠木正成(上・下)

作者:北方謙三|中公文庫
南北朝時代の忠臣を描いた作品だが、この小説では作者ならではの視点で描かれている。
河内の悪党の正成は、近隣で反乱をおこす悪党を支援しつつ、物流の整備を行っていた。
いずれ、鎌倉武士の治める世の中を覆してやろうと画策していた。
後醍醐帝の反乱には心を動かされなかったが、大塔宮に出会い、鎌倉幕府を倒すために立ち上がる。
最初の反乱は、たやすく打ち破られたが、これは織り込み済みだった。
2度目の反乱は、綿密に計画を元に実行を移し、やがて鎌倉政権は倒れてしまう。
建武の新政には興味が無く、物流の道を切り開こうとする正成だが、政争に巻き込まれていく。
後醍醐帝に見捨てられた大塔宮を守るため、足利尊氏と対立することになる。


武士という身分を否定し、朝廷の権威も拠り所にはしない。
作者ならではの人物造形となっていて、湊川への出撃前の弟との会話で話は終わる。
歴史上のヒーローの最期を描かなかったのは、意外だった。
滅びの美学を描いて来た作家だけに、劇的に締めくくってほしかった。




楠木正成〈上〉 (中公文庫)

楠木正成〈上〉 (中公文庫)