破軍の星

作者:北方謙三集英社文庫
水滸伝三国志で新境地を開拓した作家が、歴史小説に乗り出した90年代の作品。
この時期に南北朝時代をテーマに集中的に作品を発表していて、その中の一つ。
この作品の主人公は北畠顕家
公家の息子だが、幼いころより、才気にあふれ、10代後半には陸奥守に任じられる。
後醍醐天皇の息子で、のちに後村上天皇となる皇子を推戴し、多賀城に乗りこむ。
神がかり的な武力と、東北に根を張る山の民と手を組み、みちのくの地を抑える。


後醍醐天皇足利尊氏の対立が避けられない状況になり、顕家はみちのくの武士をしたがえ、遠征する。
兵站に苦しみながら、京都で尊氏の軍勢を打ち破る。


公家として京の都に凱旋した顕家だが、主上を支える公家たちの堕落に絶望を覚える。
みちのくに凱旋した顕家は、山の民の首領から新しい国を作ろうと持ちかけられる。
民のための政治に気づいた顕家は、足利家による妨害を鎮圧し、東北に新しい国家の建設の夢を持つ。


京の都では、尊氏の勢力が盛り返し、顕家にも兵を率いて尊氏を討つよう密勅がしきりに届く。
山の民と新国家を築くのは、尊氏を討ってからと考えた顕家は、再び遠征軍を組織する。
頼みの楠木正成は戦死しており、孤独な戦いを続ける。




この作家の本質である滅びの美学が現れている。
市井の民の辛苦を顧みずに、中央では権力闘争が続いていることに対して憤りを感じる顕家。
東北の夢を果たせず、後醍醐天皇に直奏をしたため、堺で戦死する。
後の楊令伝のベースになったのは、この作品だったのだな。

破軍の星 (集英社文庫)

破軍の星 (集英社文庫)