入らずの森

作者:宇佐美まこと|祥伝社文庫
四国山中の過疎地にある尾蛾中学は、人口減少により、廃校が決まっていた。
同校教師の金沢は、怪我のため陸上選手を断念し、都会から過疎地に赴任していた。
同校の生徒の杏奈は、両親の不仲のため、祖母の家に下宿しているが、都会のまま、金髪で通していた。
広島のスーパーで働いていた松岡は、この土地でIターンのため、農地を買い、生活を始めた。
廃校となることを記念して、金沢は、生徒たちにこの学校の歴史を調べるように指導する。
この土地には、平家の落人伝説が残っていて、昭和の初期と、戦後すぐに、悲惨な殺人事件が起こっていた。
金沢は生徒たちに調査を進めさせるが、校歌を作った教師が、南方熊楠と親交があったことを知る。
さらに、今は存在しない校歌の3番があったことを突き止める。
杏奈の家には、屋根裏からだけ見ることのできる、昔の少女が住む部屋があった。
一方、松岡は農地を手に入れたが、有機栽培に固執するため、地元農民に煙たがられていた。


里山の奥にある原生林に、人の恨みを吸って生きる粘菌が不気味にうごめき、村を覆っていく。


里山の奥に広がる原生林と、かつてそこに生活したサンカとよばれる山の民。
昭和の初期の事件の残虐性、校歌の3番に秘められた謎。
さらに杏奈の家で見える不思議な光景。
伝奇ミステリとしての材料は十分なくらい揃っている。
ストーリーの破たんもなく、面白かった。ただ登場人物の造形が少し弱いのが少しだけマイナス。


入らずの森 (祥伝社文庫)

入らずの森 (祥伝社文庫)