愛しいひと

作者:明野照葉|文春文庫
一流企業の営業部長の夫が50歳を目前に失踪した。
妻の睦子は思い当たる節もなかったが、夫の瞭平が戻ってくる気配はない。
夫の失踪の1年後から、睦子は仕事を始めるが、社会の厳しさを思い知らされる。
瞭平は、会社から失踪したあと、川べりでホームレスとなっていた。
社会に居場所が無いような感覚に襲われ、そのまま睦子には告げず、ホームレスの社会に溶け込む。
瞭平の失踪後、大学生の息子の直也も勝手に一人暮らしを始める。
バラバラになった家族3人を、睦子と瞭平の淡々とした視点で話は進む。


この作家の作品には珍しく、悪意はなく、サスペンスでもなかった。
「いずれ戻ってくるだろう」「何とかなるだろう」という登場人物の心情は新鮮に思えた。
世間知らずの睦子に対する社会の逆風、ドロップアウトした瞭平の達観の対比が面白かった。
今までとは違う作風だが、何となく崩壊する家族を鋭く抉っている。


愛しいひと (文春文庫)

愛しいひと (文春文庫)