刑事のまなざし

作者:薬丸岳講談社文庫
様々な境遇にあえぐ人たちが直面する犯罪を描いた短編集。
事件を解決するのは、元法務技官で、娘を通り魔に襲われ植物人間にされ、刑事になった夏目。
夏目は娘を襲った犯人を捕まえる決意を持っているが、直面する事件には真摯に向かいあう。
「黒い履歴」は身内を殺害し、刑務所から出た後もまともな就職が出来ない男が、幼児虐待による殺人事件の容疑者になる話。
「ハートレス」はホームレスに転落した30代サラリーマンが、近くにすむ同じホームレスの殺害を目撃する話。
「プライド」は男性関係の派手な旅行代理店勤務の女性が殺害され、浮かび上がる意外な容疑者の話。
「休日」は妻を亡くし、仕事をしながら息子を育てているが、非行に走っているのではと疑う父親の話。
「オムライス」はロクでもない内縁の夫が、放火事件で殺され、自分の息子が疑われる看護婦の話。
「傷痕」は自傷に走る女子校生を心配するカウンセラーと、痴漢えん罪により仕事を失った教師の話。
表題作の「刑事のまなざし」は夏目の娘が襲われる事件を描いた話。
少年犯罪から更正した男が、かつてのいじめられっ子から恐喝されるところから始まり、この作品は100ページの中編。


いずれの話も、登場人物の心の動きが丁寧に描かれている。
読者にとって感情移入しやすい人物描写で、「自分ならどうするか」と考えさせられる。
面白い。買って損はない作品。


刑事のまなざし (講談社文庫)

刑事のまなざし (講談社文庫)