赤い人

作者:吉村昭講談社文庫
すでに亡くなっている作家だが、まだ読んでいない作品も多い。
これは題名も初めて見る作品だった。


明治維新の混乱期に、犯罪者を収監する場所が不足した政府は、蝦夷の地に刑務所を設立することを決める。
役人を派遣して、農耕作業や、鉱山の作業に当たらせるのに向いているということで、収容所を作った。
赤い囚人服を着せられた罪人は、北海道に送られていく。
収容所を作った役人は、冬に備え、囚人の防寒対策を政府に訴える。
だが、政府は一律の基準を適用し、囚人に防寒対策はとられず、最初の冬で、かなりの数の死亡者を出す。
看守たちも最下層の扱いを受けており、囚人たちとの対立が進む。
やがて脱走者が出始めるが、仕事を失うことを恐れる看守たちは、脱走者をとことん追い詰める。
監獄を作った人物も、蝦夷地の厳しい環境で身体を壊し、退職をやむなくされる。
脱獄は日常茶飯事で、囚人は毎日のように鉱山の過酷な環境で死亡者を増やしていく。


ここに収監された著名な罪人のエピソードはあるが、この作品に主人公はいない。
管理する側にも、管理される側にも救いはまったくない。
あまりにもひどいから、鉱山の労働に付帯した刑務所は、日露戦争後に無くなった。


誰も取り上げないようなことを小説に仕上げる吉村昭の手法は、本作でも驚かされる。
ただし面白さは、この作家にしてはイマイチだが、明治の暗黒史を見事に描き上げている。



新装版 赤い人 (講談社文庫)

新装版 赤い人 (講談社文庫)