作者:綱淵謙錠|文春文庫
昭和47年に直木賞を受賞した作品。
江戸時代の斬首を生業とした山田浅右衛門一族の幕末以降の没落を描いている。
元禄時代から200年間斬首を行ってきた山田一族は、武士ではなく浪人の身分で職を遂行していた。
斬首以外に、刀の試し切りと、生き胆の抜き取りによる薬品販売で、莫大な利益を得ていた。
7代目の浅右衛門の吉亮は、12歳の時に初めて斬首を行う。下手人は17歳の少年だった。
大政奉還し、江戸での仕事がどうなるか分からなくなり、吉亮は彰義隊に志願する。
ところが、彰義隊幕臣だけで構成しており、首切り役人は仲間に入れてもらえなかった。
戦に巻き込まれた吉亮だが、その後また斬首の仕事に戻る。
兄2人は斬首の仕事に倦み、三男の吉亮だけが斬首の仕事を続ける。
明治14年まで斬首は続いた。吉亮は大久保利通の暗殺犯、高橋お伝などの首をはねていく。
6代目の吉利の後妻の素伝が子供を産んだことで、山田家には亀裂が走る。
遺産の生前分与を求めた2人の兄は、金を得て放蕩生活を送り、吉亮は一族の滅びを予感する。



斬首の細やかな描写と、史実をふんだんに持ち出した作品は読みごたえがあった。
ただ、一族の滅びの原因となった素伝の描かれ方が少し弱い。
最後に身内の首を刎ねた吉亮のその後もよくわからないのは不満。


新装版 斬 (文春文庫)

新装版 斬 (文春文庫)