小太郎の左腕

作者:和田竜|小学館文庫
のぼうの城」や「忍びの国」で新しい戦国時代を描きだす作家の3作目。
西国の国人勢力の戸沢家は、隣国の児玉家と激しい争いを繰り返していた。
冒頭の闘いで、戸沢家随一の猛将の林半右衛門は、主将の戸沢図書を逃すために負傷する。
要蔵という老人と孫の小太郎の棲む猟師の家で手当てを受けるが、要蔵の戦略眼に感銘を受ける。
一方で、立派な体型を持つ小太郎が愚鈍のまま振舞うことを、要蔵が矯正しないことに疑問を持つ。
小太郎が鉄砲を持ちたがっているのに、要蔵は決して許そうとしない。
要蔵が目を離した時、場内の鉄砲の試合に来るかと半右衛門は小太郎を誘う。
小太郎は鉄砲の試合に現れ、左利きの銃で恐ろしいまでの腕を披露する。
要蔵から自らの苛烈な出自を聞いた半右衛門は、家中に引き込むことをあきらめる。


その後、戸沢家と児玉家の争いは、戸沢家が劣勢となり、籠城を余儀なくされる。
児玉家が雇った忍びが、兵糧庫を焼き払い、戸沢家はますます追い詰められていく。
半右衛門は一計を案じ、小太郎を城内に呼び込むことにした。


前2作が、史実をベースにしていたが、本作はおそらく架空の争いを描いている。
また、どことなく漂っていた明るさも本作にはない。
謀略に自責の念を感じる半右衛門に人間臭さを感じるが、後半は暗い雰囲気に満ちている。
だからと言ってつまらないわけではなく、リアリティにあふれる作品だった。


小太郎の左腕 (小学館文庫 わ 10-3)

小太郎の左腕 (小学館文庫 わ 10-3)