茗荷谷の猫

作者:木内昇|文春文庫
江戸時代末期から昭和の行動成長期まで、東京の市井の人の生活を描いた連作集。
武士の身分を捨て、桜の新種を生み出そうとする男の話から始まる。
維新を経て、怪しげな黒焼きの効能にとりつかれる男の話。
役所勤めをする夫と暮らす女流画家が、夫に似た男性を芝居小屋で見かける話。
職工になるために上京するも、下宿先の大家に丸めこまれ、作家に借金を取り立てに行く男。
親の遺産が入り、誰にも干渉されずに生きて行こうとする遊民の話。
映画づくりの夢がありながら、何から手をつけていいかわからないまま、徴兵される男。
終戦後、遺児となった少年が池袋の闇市で、少し頭の弱い詩人と出会う話。
登場する人物は何かに執着しており、それによって現実を見失う。
また、これらの話はそれぞれ独立しているが、次の話で彼らの消息が少しだけ分かったりする。
無名の人をさりげない関係性を持たせて、時代を紡いでいく不思議な魅力のある作品。
特に表題作と、「隠れる」は江戸川乱歩チックな幻想的な作品で、面白かった。


茗荷谷の猫 (文春文庫)

茗荷谷の猫 (文春文庫)