骨の記憶

作者:楡周平|文春文庫
東北の没落した旧家で末期がんの夫の看病をする妻の清枝。
そこに彼女が小学生の時に失踪した父親の頭蓋骨が届く。差出人の名前は長沢一郎。
中学卒業と同時に集団就職で、東京に出て行った清枝の同級生だった。
だが、一郎は東京で翌年、火事に巻き込まれ、死亡している。
清枝に頭蓋骨を送ってきたのは誰なのか、父は何故失踪したのか?
プロローグの謎かけのあとは、戦後の東北の寒村が描かれる。
一郎は小作農の長男として生まれ、不幸な事故で清枝の父親を死なせてしまう。
長男でありながら、東京に出たのは清枝の父が埋まっている山から遠ざかりたかったのかもしれない。
集団就職で、東京の中野の中華料理屋で働き始めた一郎だが、東北弁をバカにされ、なかなかなじめない。
ようやく仕事に慣れてきたのもつかの間、先輩が店の売り上げをちょろまかしていることが発覚する。
中華料理屋にいづらくなった一郎は、故郷に逃げ戻ろうとする。
ところが、カバンを先輩のモノと取り違えて、下宿に戻るが、全焼していた。
焼死した先輩は、一郎として処理され、先輩のカバンにある遺族年金や千葉の土地の権利は一郎のモノになった。
一郎は松木幸介と先輩の名を名乗り、毎月入ってくる遺族年金には手をつけず、運送屋で働き始める。
物流のあり方に不便を感じた幸介は自分のやり方で会社を興そうとする。
そんな彼を後押しするかのように、千葉の土地が成田空港の用地として買収され、幸介は大金を手にする。
その金を運送会社設立につぎ込み、幸介は高度成長期を駆け抜ける。


昭和の時代を描いた大河ドラマで、東北の小作農の倅がのし上がっていく波乱万丈の展開。
これは読みごたえがあり、非常に面白かった。
この作家は、デビュー作の「Cの福音」は面白かったが、その後の作品はイマイチだった。
それで、敬遠していたのだが、見直した。他の作品も読んでみよう。


骨の記憶 (文春文庫)

骨の記憶 (文春文庫)