砂の王国(上・下)

作者:荻原浩講談社
大手証券会社を退職した私は、あっという間にホームレスに転落してしまう。
すでに所持金は3円で、残飯を漁るまで、人間の尊厳を失いつつあった。
そんなとき、辻占い師の龍斎に出会い、客引きで小銭を稼ぐようになる。
私がねぐらにしようとしていた公園にはナカムラという美青年のホームレスが居た。
ナカムラは事故の影響か、ほとんどしゃべることはないが、人を惹きつける魅力があった。
また、龍斎は驚くほどの洞察力を持っていて、酒癖が悪くなければ一流の人物だと言えた。
龍斎のヘルプで、酔っぱらいから5万円を得た私は、ギャンブルに打って出る。
龍斎と共に競馬場に行き、大穴馬券を的中させ、300万円を手にした。
私はナカムラと龍斎に新興宗教を作ろうと提案する。
どん底にいた3人が手を組み、「大地の会」は少しずつ信者の数を増やしていく。
だが、3人の目指すところが徐々に一致しなくなり、破滅への予感が漂い始める。


新堂冬樹の「カリスマ」や篠田節子の「仮想儀礼」もそうだけど、宗教を題材にした小説は長編になりがちだ。
それでも、面白いのは、そこに群がる人たちの様々な欲望が描かれるからだ。
この作品は加えて、主人公たちがどん底から這い上がる過程が面白い。
また占い師の洞察力や言葉の使い方や、信者を騙す小技などが効果的に盛り込まれている。
単行本で800ページ近い長編だったが、一気読みできる面白さだった。
作者の新たな代表作となる作品だと思う。

砂の王国(上)

砂の王国(上)