氷結の森

作者:熊谷達也集英社文庫
日露戦争に出征していたマタギの矢一郎は、従軍後に故郷の秋田に戻る。
新妻は間男との間に子供を生んでおり、矢一郎が問い詰めると、子供を道連れに焼身自殺。
矢一郎は故郷を出奔し、北へと流れ、樺太で生活を送っていた。
人並み外れた体格と体力で、ニシン漁や森林の伐採で重宝がられた。
しかし、矢一郎は生きる目的を失い、流浪の生活を送っていた。
そんな矢一郎を執拗に付け狙う、妻の弟の辰治。
辰治が近くに迫るにつれ、矢一郎はどんどんと樺太を北上する。
ある時、原住民の娘タイグークと知り合うが、誘拐されてしまう。
親から頼まれ、タイグークを取り戻すため、矢一郎は樺太からロシアの尼港という町に渡る。
ロシアは革命直後で、尼港の町には日本軍が駐留していたが、不穏な空気が漂っていた。
この町の裕福な日本人たちは危機感を覚えることもなく、生活を送っていた。
その中に樺太で親しくなった香代がレストランを経営していた。
中国人街で決闘し、タイグークを取り戻した矢一郎は香代とともに尼港を脱出しようとする。
だが、少数の日本軍しかいないこの町に武装したパルチザンが大挙押し寄せてくる。


この作者の「森」シリーズの3作目で、数百人の日本人が虐殺された尼港事件をベースにしている。
2作目の「邂逅の森」は直木賞山本周五郎賞のダブル受賞作で抜群に面白かった。
この作品も元マタギである矢一郎の波乱の人生を描いているが、ハードボイルドとサスペンス色が強い。
少し前作と毛色が違うが、クライマックスの市街戦で見せる矢一郎の戦闘能力の高さは読み応えがあった。
虚無感を漂わせながら、約束は必ず守る魅力的な男を描いた作品。面白かった。

氷結の森 (集英社文庫)

氷結の森 (集英社文庫)