ひとごろし

作者:明野照葉|ハルキ文庫
フリーライターの泰史は、10年以上東京の本郷に住み、独身生活を送っていた。
近くには行きつけの料理屋「琥珀亭」があり、店主夫婦とも親しくしていた。
その店に弓恵という女性が従業員として働くようになる。
どこか儚げな弓恵に惹かれていく泰史だが、彼女の言動におかしなところがあることに気づく。
当然知っているような事件や流行を知らなかったり、化粧をしたときの表情の変化。
泰史は弓恵の過去を調べ、過去に夫と不倫相手を殺害して服役していたことを知る。
また、弓恵は歌神楽女という憑き物の家系の出身で、人に恋すると災いをもたらすという。
泰史の妹の萌子は、弓恵を一目見たときから、「兄さんにはふさわしくない」と嫌悪感を持つ。
軽い気持ちで弓恵と付き合い始めた泰史だが、日常生活を見張られているような気分になる。
弓恵がひそかに自分の部屋に侵入し、プライベートな部分をのぞき見しているのではないか?
弓恵との付き合いに疑問を持ち始めたころ、萌子が行方不明になる。
弓恵が萌子を殺したのではと、泰史は次第に疑心暗鬼に駆られていく。


この作家は女性の狂気を上手く描く。弓恵だけでなく、泰史をとりまく女性の少しゆがんだ愛情。
今回の作品には歌神楽女という憑き物系の家系をミックスさせ、ミステリアスな雰囲気を増幅させている。
弓恵に取り込まれ、少しずつ正気を失っていく泰史の描写は面白かった。
ただ、結末は少し肩透かしというか、読者に判断をゆだねる手法はすっきりしない。
それでも面白く読めたし、はずれのない作家だ。

ひとごろし (ハルキ文庫)

ひとごろし (ハルキ文庫)