怪談熱

作者:福澤徹三角川書店
9つの怪談が収録された短編で、この人はやはり才能があると感じた。
ただし、本作についてはレベルは保持しつつも、これという作品がなかった。
「怪談熱」は体調を崩した作家が、鰻屋で会談を蒐集する話だが、店を出てからの展開が意外。
「ブラックアウト」は風俗嬢のヒモで、スナックを経営する男が出会う怪異。
「花冷えの儀式」は中途採用された会社の花見に駆り出される男の話。これは雰囲気が良かった。
「ドラキュラの家」は廃屋と思われた家に住む少年と、苛められっ子との交流を描いた古典的なホラー。
「夏の蟲」は道に迷った挙句、警官に理不尽な尋問を受ける話で、不条理さと怪異を上手くミックスさせている。
「再開」は医者の妻となったキャバ譲の元に、昔の恋人が刑務所を出て訪ねてくる話。サスペンス色が強い。
猿島」はサルを生き神とあがめる異国の島に旅行に行った家族の話で、海外旅行が怖くなる。
「最後の礼拝」は成功から転落していく男の独白で、これこそ怪談という結末のどんでん返しが素晴らしい。
「憑霊」はいわくつきの廃病院に突撃取材に訪れた怪談作家一向の話で、互いに疑心暗鬼になっていく様が良い。
個人的には「憑霊」「夏の蟲」「最後の礼拝」「ブラックアウト」が面白いと思った。
純粋な怪談としての面白さに加え、サスペンス色をミックスさせた新基軸の作品だ。