仮想儀礼(上・下)

作者:篠田節子|新潮社
東京で公務員として、順調な生活を送っていた正彦は、作家の夢をあきらめきれなかった。
5千ページにわたるゲームブックを上梓し、退職するが、同時に妻も出ていった。
作家としてスタートするはずだったが、出版はされず、担当の矢口は失踪してしまう。
傷心の正彦が新宿をうろついていると、ホームレスとなった矢口を発見する。
自宅に矢口を連れ込み、批難していると、テレビではワールドトレードセンターに航空機が衝突。
9.11を目の当たりにした正彦は、矢口とともに、宗教団体を立ち上げる。
最初は冷やかしの客しか訪れなかったが、徐々に人が集まりはじめる。
『信者が30人いれば、食っていける。5百人いれば、ベンツに乗れる』
正彦の教団は、食品会社の創業者をスポンサーに得て、飛躍的に成長を遂げる。
加えて、芥川賞作家が入信したことで、信者たちの結束が強まっていく。
東京の郊外、神戸に道場を作るが、あやしげなブローカーや、同業者が接触してくる。
いつしか正彦たちは大きなトラブルに巻き込まれ、マスコミから、邪教として扱われるようになる。
信者たちは逃げ出し、正彦は教団をたたむことを考える。
だが、教団に残った女性たちが、それを許さず、正彦たちは破滅に向かう。


上下巻合わせると900ページにわたる長編だが、抜群の面白さだった。
普通の人が教祖になり、弱い人間をたぶらかし、人をコントロールする喜びを得る。
成功をつかみかけたところで暗転し、窮地に追いつめられる。とにかくスリル満点だった。
こんな作品があるから、本を読み続けるのだろうな。

仮想儀礼〈上〉

仮想儀礼〈上〉