本日、サービスデー

作者:朱川湊人|光文社
鶴ヶ崎は43歳で、都内の商社に勤めていた。
通勤にはローンのある自宅から、職場まで2時間半もかかる。
家族からは疎まれ、行き場のない、憤りも徐々に諦めに変わってきていた。
そんなある日、年下の上司に呼びつけられ、早期退職を勧められる。
呆然と家に戻り、家族の寝静まった自宅で、ビデオを見ていると、画像が乱れはじめる。
そこには「本日サービスデー」を知らせる不思議な映像が流れていた。
日付が変わり、妙にしおらしくなった妻が、鶴ヶ崎を心配する言葉を投げかける。
翌日、何故か早起きした娘や息子と妻に見送られ、出勤する鶴ヶ崎。
職場でも、いつもと雰囲気が異なり、他の社員が妙に親切だ。
トイレで悪魔と天使の姿を目の当たりにした鶴ヶ崎は、人生でただ一日のラッキーデイであることに気づく。
自分の願望を次々にかなえていくが、年下の上司が乗った飛行機が墜落したことを知り、呆然とする。
サービスデーの取り消しを天使に申し出るが。。。
この本には表題作をはじめ、5つの作品が収録されている。
表題作の「本日、サービスデー」は今までの朱川湊人の作風と異なり、何だか荻原浩のテイストを感じた。
この作家には意外だが、こういうほのぼのとした作品でも面白い。
新機軸かと思っていたら、2つ目の「東京しあわせクラブ」は従来の普通の中にある不気味さがあり、落差は大きい。
これが面白くないとか、悪いというわけではない。以降も従来の朱川らしい怪談が続く。
クオリティも落ちていない。でも、「本日、サービスデー」と他の作品のギャップに何だか、居心地の悪さがある。
一つ一つの話は面白いのだが。逆に言えば、「本日、サービスデー」の出来が良すぎたのだろうな。
この作品だけでも自分には充分すぎる価値があった。今のところ今年の一押し。

本日、サービスデー

本日、サービスデー