県庁の星

作者:桂望実幻冬舎文庫

  • あらすじ

Y県に上級職として入職した野村は、新人事制度の一環として、民間企業に派遣される。
1年間の派遣期間を終えれば、エリートとしての道筋が約束されていた。
野村が派遣されたのは県の外れにあるスーパーだった。
売り上げが落ち、社員はやる気をなくし、パートの中年女性の二宮が実権を握っていた。
野村は張り切って、仕事に取り組もうとするが、やる気が空回りし、従業員から煙たがられる。
二宮は、野村のやる気を認めるが、公務員根性に浸った前例主義をまったく評価できなかった。
野村も、二宮もスーパーを良くしようとするが、視点が異なるため、接点が出てこない。
そんな中、スーパー本部が大幅なリストラ計画を発表し、従業員たちはビクビクし始める。
野村は自分には関係がないと、独自にお惣菜の新メニューを考え始める。
二宮は野村の事務処理能力の高さを利用し、リストラに対抗するために売上アップを試みるが。

  • 感想

エリート意識丸出しの二宮が、売上の冴えないスーパーに赴任し、直面する試練は面白い。
何かを指示されると「マニュアルはないのか」と聞く融通の利かなさは極端だ。
だが、負けず嫌いで、かつ素直な性格で次第に現場を克服していくのもいい。
また、底抜けに人がよく、合コンで知り合った女性に大金を騙し取られても、平然としている。
一方、二宮は離婚後、パートとして働いているが、親分肌と周りから評価されている。
でも、実情は息子の進路にハラハラしつつ、リストラ対象者を決めるのにも逃げ腰だ。
阪神ファンで、ビールを飲みながら自宅で応援しているが、トラブタと陰口を叩かれている。
序盤は無責任な従業員が二宮と野村に責任を押し付け、何と嫌な連中だろうと思わせる。
だが、終盤に近づくにつれ、従業員たちが実は地域の人たちと強い絆を持っていることが判明する。
このギャップがリストラを乗り切ろうとする話を盛り上げていく。すっきりとした読後感。
映画になる理由もわかる。面白かった。

県庁の星 (幻冬舎文庫)

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