厭世フレーバー

作者:三羽省吾|文春文庫

  • あらすじ

リストラされた父親が失踪し、家には5人の家族が残された。
次男のケイは14歳で、陸上部を辞め、新聞配達のアルバイトを始める。
長女のカナは17歳。高校の帰りにおでん屋で深夜までバイトに励む。
長男のリュウは27歳で、警備会社の営業の仕事を退職したばかりで、日雇労働者になる。
母の薫は42歳。父が失踪してから、ボケた祖父の面倒を見つつ、昼間から酒を飲むようになっていた。
祖父の新造は73歳で、自分が少し耄碌したことを自覚しながらも、孫や嫁にはきつく当たっていた。
大黒柱がいなくなり、崩壊しそうな家族の肖像を、残された5人の視点から描いている。
次男と長女は喧嘩、援助交際、カンパなど、学生生活を取り巻く変化を語る。
長男は、失業後、日雇い労働者となり、それでも家族を支えるため、がんばろうとしている。
母の章は、失踪した父との出会いを、酒とともに思い出すシーンが中心。
最後の祖父の章は、戦争を乗り越え、現在の家を建てる昭和史から、現在に戻ってくる。

  • 感想

父が失踪し、バラバラになりそうな家族を描いた作品で、ありきたりなのに妙に面白かった。
子供たちの近い未来しか見えない視点は、どの時代も共通している部分がある。
長男の責任感と共に同居する諦念にも似た煮え切らなさが、外国人の犯罪を呼び込むのも良い。
さらに、大人たちにより語られる歴史がいい。誰にでもありそうな話だが、一風変わっている。
また一度も登場しない父の姿が、家族から間接的に描かれるが、すごく魅力的な人物に思える。
家族の危機を描いたリアルな話に、大河小説の味付けが加わった贅沢な小説。
これは文句なしに面白かった。

厭世フレーバー (文春文庫)

厭世フレーバー (文春文庫)