部長漂流

作者:江波戸哲夫|角川文庫
不動産会社に勤める森田は、バブル崩壊後、出世コースから外れ、不満を募らせていた。
そんなとき、会社が早期退職を募ったので、森田は手を挙げることにした。
独立して、不動産の仕事でもう一旗を揚げ、会社の人間を見返すつもりでいた。
だが、退職後、妻と息子と娘が失踪してしまう。家財道具の消えた家で茫然とする森田。
さらに、退職金と貯金の半分がなくなっており、起業資金を取り戻すために森田は妻子を探す。
妻の実家や友人を訪ね歩き、家族が自分のことをどう考えていたか、思い知らされる。
ようやく妻の居場所を見つけたが、妻からは離婚を突きつけられる。
仕事一辺倒でやってきた50代男性の悲哀と家族の問題がテーマで、ミステリーの要素もある。
職場を離れた途端、手のひらを返したような態度をとる部下や取引先の描き方も屈辱が伝わってくる。
主人公の焦燥感と割り切れない気分がよく伝わってくるが、共感できないところがリアルだ。
煮え切らない結末も、この小説の場合よかったのではないかと思えてくる。
自分は面白いと思ったし、何よりタイトルが気に入った。

部長漂流 (角川文庫)

部長漂流 (角川文庫)