傀儡

作者:坂東眞砂子集英社
鎌倉時代の鎌倉を舞台に、日本人の死生観と宗教観をテーマにした歴史小説
傀儡女の叉香は、招かれた地頭の屋敷で「鶴岡公暁」と名乗る武者と出会う。
鶴岡公暁の正体は、宝治合戦で滅ぼされた三浦一族の生き残りの三浦家村だった。
家村は時の執権の北条時頼の命を狙い、鎌倉の街に潜入する。
叉香は家村とはぐれ、山賊に拉致されるが、無事解放され、鎌倉に向かう。
一方、家村に夫と息子を殺害された「いぬ」は踊り念仏の一行に加わり、鎌倉を目指す。
踊り念仏の一行を仕切るのは、沙依拉夢という中国の西部から流れてきた異国の行者だった。
人生は遊びだと割り切る叉香、仇を討つために周りが見えなくなった家村といぬ。
そして、宗教とは何かと自問しながら漂流する沙依拉夢。
憤怒に駆られ、自らの顔の皮をそぎ落とすシーンや処刑場に仲間と共に引き出されていく心情描写は迫力がある。
劇的な人生を送る家村といぬと対照的に、宗教の本質を求める沙依拉夢の行動も良い。
仏法は現世の苦しみを救済するために存在するはずなのに、為政者の手段として利用される。
沙依拉夢は親鸞日蓮と会うが、彼らの宗教観にも納得できない。
永遠の真理などは蜃気楼に過ぎず、本当の救済は心の一瞬の輝きに宿る。
4人の行動が交差しながら話は進み、幻想的なクライマックスから別れの場面まで一気に読ませる。
脇役の千手丸や地魔爺の存在も魅力があり、これは文句なしに面白かった。

傀儡

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