八月の舟

作者:樋口有介|文春文庫
60年代の北関東の小さな町を舞台にした青春小説。
高校生の「僕」は、その年の夏休みに晶子という魅力的な少女と出会う。
悪友の田中君と晶子と3人で深夜のドライブに出かけ、ビールを飲み、酔っぱらう。
帰り道、田中君の運転する車は、崖下に転落し、田中君は入院する羽目になる。
その間に「僕」は、晶子と急接近するが、周りでは様々な事件が起きる。
幼馴染がプールで水死し、田中君は高校を辞め、東京に出ていくと宣言する。
晶子の気持を確かめる前に、「僕」の母が倒れてしまう。
ひと夏の経験を経て、「僕」が成長していくストーリーだが、ありきたりではない。
僕の太った母親や、田中君の複雑な家庭の女性たちは強く逞しく、魅力的だ。
思うようにならず、じりじりとする焦燥感と、もどかしさ。
若い頃誰もが経験することだけど、あとになり振り返ると懐かしく、貴重な時間だったと気づく。
そんなことを思い起こさせる小説で、ふと、この音楽がぴったりだと思った。

ENUFF ZNUFF『These Daze』

ずっと長い年月
独り立ちをすることが怖くて
ただ身をすくめていたのさ
ぼくたちは夜を制覇し
いつまでも興奮から覚めずにいた

わかっているよ 完全に脱線して
暴走してしまったよね
でもこれだけは言える
ぼくたちは正気を失うことはなかった
最高にいい気分だったさ
この記憶は消えやしない
この日々は一生の思い出として残るんだ

過ぎ去った時間は戻らないけど、あがいた分だけ、後になればいい思い出になる。
問題は、若い時にはそのことに気付かず、楽な方向に流されていくことなんだな。

ENUFF ZNUFFは日本では売れなかったが、非常に楽曲のクオリティの高いハードロックバンド。
ビートルズに対するリスペクトにあふれた曲が多い。自分は今でもよく聞く。

八月の舟 (文春文庫)

八月の舟 (文春文庫)

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