あちん

作者:雀野日名子メディアファクトリー
第2回「幽」怪談文学賞の短編部門の大賞受賞作。
北陸のF市の市役所に勤める「私」の周りで起きる5つの怪談を収録している。
表題作の「あちん」は市役所のそばに生える藻草を踏んだ「私」に訪れる怪異。
戦時の空襲で大勢の人たちが死んだお堀端に佇む、顔半分が潰れ、左腕のない鉄五郎。
大阪に向かう電車の中で悪夢を見るが、イマイチ恐怖が伝わってこない。
タブノキ」は「私」の職場の同僚が自宅の木を切り倒したことで、荒んでいく話。
「2時19分」は「私」の高校時代の彼氏がUターンしてきたとたんに事故死する話。
事故現場近くにあるどこにもつながらない公衆電話など、舞台装置は良い。
「迷走」は久々に高校時代の友人に呼び出された「私」が出口の見えないトンネルで迷う話。
最終話の「もうすぐ私はいなくなる」は、首なしの武者行列を目撃した「私」の後日譚。
大賞作だけあり、そこそこ読ませるし、伏線も巧みだったが、あまり面白くなかった。
主人公の「私」が恐怖に対して鈍感で、虚無的なところが、盛り上がりを欠いている。
ただ、「迷走」だけはどんでん返しがあり、怪談として非常によくできた話だった。
怪談って怖い上に、面白くないといけないので、書くのには難しいジャンルだと思う。

あちん (幽ブックス)

あちん (幽ブックス)