とげ

作者:山本甲士|小学館文庫
大阪南部の南海市役所の市民相談室で働く倉永がトラブルに巻き込まれる話。
市民相談室には苦情を寄せる住民が多く、倉永は対応に追われていた。
公園のフェンスが破れ、子供がけがをしたとか、池にワニがいるとか。
市民の窓口として、苦情を聞き、各部署に依頼をするがタライ回しをされる。
ストレスがたまっているところに、上司の課長が回数券の偽造で逮捕される。
また、自宅の車をパンクさせられる被害を受けるが、犯人には心当たりがない。
さらに同じ公務員の妻が、飲酒運転で追突事故を起こし、免職処分となる。
トラブル続きの倉永だが、酒席で市長から暴行を受け、溜めていた不満を爆発させる。
前半はこれでもかという不幸の連続で、まるで新堂冬樹の小説のような転落劇だ。
そこから一転、後半は、市長をはじめとする市の幹部と対決するシーンはえげつない。
小心者の主人公がブチ切れて、半ば破たんしたような攻撃的な人格になる。
ワニ騒動をはじめ、それぞれのエピソードが非常に面白いし、スカッとする小説。
特にワニを捕獲するシーンでの野次馬の発言には、爆笑してしまった。
「どろ」「さび」に続く小市民のトラブルにまつわる話の3作目。
「どろ」は隣人同士のトラブルがエスカレートし、嫌がらせの限りをつくした。
「さび」は大企業に挑む主婦を描いた。この2作も非常に面白かった。
でも、この3作目は作者の最高傑作になったと思う。ひたすら面白い。
公務員も大変だなあと思う。

とげ (小学館文庫)

とげ (小学館文庫)