愛しの座敷わらし

作者:荻原浩朝日新聞出版
食品会社に勤める晃一は、半ばリストラの形で、地方の支社へ転勤の辞令が下りる。
晃一は冷え切った家族の関係を取り戻すために、ど田舎の古い一軒家に住居を定めた。
妻の史子は家庭を顧みない夫と、少し呆けが始まった姑にイライラしていた。
娘の梓美は中学校で少しイジメに合い、引越については歓迎していたが、晃一との関係は最悪。
長男の小学4年生の智也は、小児喘息で、引っ込み思案の性格だが、家族のことをよく観察している。
晃一の母の澄代は、夫を亡くしてから息子の家族と同居を始めたが、老化による体調不調が続いていた。
晃一だけが新しい家にはしゃいでいたが、他の家族には不評だった。
環境が変わっても晃一は仕事第一で、史子は家族に対する不満があり、梓美はイジメを恐れていた。
だが、その家には座敷わらしが住みついており、その存在をまず智也が気づく。
その次に澄代が気づくが、二人はその座敷わらしに恐れることなく、普通に接する。
次第に他の家族達も新しい家に何かがいることに気づき始める。
家族の一人一人の視点で物語が語られるが、理想と現状のギャップや家族の不満がリアルに上手く描かれていく。
崩壊しかかっている家族が絆を取り戻す再生の物語で、コミカルな部分もあり、荻原浩らしい作品だった。
平凡な人達を描かせると、あらゆる年代を上手く描く作家で、ストーリー展開もいい。
本作は少しだけ人情モノの臭さが鼻についたけど、座敷わらしの描写が良かった。結末の台詞も良い。

愛しの座敷わらし

愛しの座敷わらし