弾左衛門とその時代

作者:塩見鮮一郎河出文庫
最後のエタ頭の13代目弾左衛門の生涯と、明治維新で解体されるエタ頭の制度を描いている。
弾左衛門は人の名であり、江戸幕府の下、エタ身分を支配する制度名でもあった。
彼は長吏(斃死牛馬を処理する人)や舞々・猿楽などの大道芸人、鉄器や焼き物を作る人たちを支配していた。
また灯心(ロウソクの芯)の販売を一手に引き受けており、莫大な収入があったことが伺える。
弾左衛門は江戸の初期は日本橋秋葉原の周辺に住んでいたようだが、時代が下がるにつれ、吉原近くに居を移す。
当然、彼の支配下に置かれた被差別民も彼とともに移住したので、このあたりは明治維新のころは貧民窟だった。
弾左衛門世襲制度だが、親子関係で続いたわけではない。13代目は神戸の石屋川出身だ。
江戸幕府に忠誠を誓っていた弾左衛門だが、倒幕後は新政府に擦り寄っていく。
エタ非人という差別的な身分を、外国から糾弾されるのを懸念した明治政府は彼らを平民にしようと持ちかける。
弾左衛門はこの提案に感激するが、今まで被差別民を支配していた座にはこだわった。
維新後、軍靴の需要に目をつけた弾左衛門は、製靴工場を作るが、上手く行かず、ついには歴史に埋もれてしまう。
最後の弾左衛門を中心に話が進むが、江戸時代に歌舞伎役者も支配下に置いていた話も面白い。
また、巻末にある弾左衛門が支配した職業の人たちの絵も貴重な資料だと思う。
それにしても現在の東京は関西のように同和地区の姿は見ることはない。
人の流入が盛んで完全に姿を消したのだろう。そういう意味では未だに人権を声高に唱える関西は異常だ。
ただ、関西には差別する人も多く、問題は当分解消されないだろうな。
小学校の道徳の時間に「にんげん」とかいうおかしな副読本を配ったことが、知らない世代にも偏った知識を与えたのは間違いない。
まあ、本の内容とは関係ないのでこの辺で止めておく。

弾左衛門とその時代 (河出文庫)

弾左衛門とその時代 (河出文庫)