鬼神の狂乱

作者:坂東眞砂子幻冬舎
江戸末期の高知の寒村で、村人が集団狗神憑きに陥る話。
正月明けの祭事が行われた翌日から、5人の村人が狗神憑きの症状が現れる。
彼らは庄屋の元を訪れ、狗神を治めるための小宮を立てるように要求する。
庄屋の順平は、最初彼らの詐病を疑い、相手にしなかった。
彼らは昼前に狗神憑きの症状が現れ、夕方には各々家に戻っていくからだ。
だが、次第に狗神憑きの症状は拡大し、20名以上の村人が狗神憑きとなる。
彼らは昼前になると仕事を放り出し、神社の境内で意味不明のことを喚き、唄う。
収まるどころか拡大することに憂慮した順平は、土佐藩奉行所に救いを求めた。
一方、小作人の娘のみつは父親が狗神憑きになり、日々の生活に不安を覚えていた。
みつは母を助け、家事をしながら、狗神憑きになった父の後を追って歩いていた。
土佐藩奉行所は二人の役人を村に差し向け、沈静化をはかる。
少し迷信深い中年の堅蔵と、好奇心旺盛で記録魔の信八は、村に着任後、すぐに調査を始める。
寺の住職や神社の神官に話を聞くが、原因はわからない。
二人が着任しても、村人の狗神憑きの症状は治まらず、子供にまで伝染していった。
土佐から名高い神官を呼び、お払いをしても効果はなく、藩は狗神憑きの村人を捕縛することを決める。
騒然とした村の中で、みつと信八は密かに恋心を募らせるが、鉄砲を持った足軽が村に押し寄せてくる。
明治維新の直前の閉塞感は、高知の田舎の村にも伝わっており、村人の狂乱振りはリアルだ。
坂東眞砂子の作品にしては、劇的さが少し足りないが、それでも面白い作品だった。

鬼神の狂乱

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