水無川

作者:小杉健治|集英社文庫
元小学校教師の真壁は、担任した児童が親の虐待で死亡した苦い経験を持っていた。
自責の念から教師を退職した真壁は、自分の経験を本として出版した。
ルポライターとして身を立てるつもりが、現実は甘くなく、塾のアルバイトで糊口を凌いでいた。
真壁はある時、児童養護施設の取材中に、夏美という女性と知り合う。
夏美には自分の娘への虐待という暗い傷を持っており、子供は施設に預けたままだった。
夏美に惹かれた真壁は、彼女と付き合い始めるが、娘への虐待は治まらない。
一方、夏美のアパートの隣には野口という暗い雰囲気の男性が住んでいた。
野口が公園で涙を流す姿を目撃し、また、目つきの悪い男が定期的に彼の元を訪ねてくる。
野口になつき始めた夏美の娘に、不安を感じた真壁は野口の過去を探り始める。
すると、10年前に野口は妻と息子を少年に殺害された悲惨な事件が明らかになる。
事件直後、容疑者として疑われた野口は警察やマスコミから非難を受ける。
その後、彼は世間から姿を消すが、真壁は現在までの10年間の野口の行動を根気強く辿る。
この小説は、真壁ではなく、野口が主人公であることが、中盤からわかる。
最初の子供虐待というテーマから、犯罪被害というテーマに主題は変わっていく。
真壁は、次第に野口という男の生き方に共感を覚えるようになる。
末期がんに冒された野口の最後の望みを叶えようとする真壁。
だが、彼らの邪魔をするのは意外な人物だった。
この作者の小説はハズレがなく、これも面白かったが、きれいな結末には納得できなかった。

水無川 (集英社文庫)

水無川 (集英社文庫)