桃山ビート・トライブ

作者:天野純希|集英社
第20回小説すばる新人賞受賞作。
秀吉の天下のもと、石田三成が推進する支配体制に、音楽で立ち向かう若者達の話。
孤児の藤次郎は、盗んだ三味線に惹かれ、天下一の三味線弾きを目指していた。
自らの演奏を聴かせるために、仲間を募り、一座を結成する。
笛の奏者は、激しいブス専で、出雲のお国の一座にいた小平太。
太鼓叩きは、信長に献上されたモザンビーク出身の黒人の奴隷の弥介。
踊り手は、食いしん坊で、底なしの酒飲みで、喧嘩無敵のちほ。
4人は各地の芝居小屋に乱入し、独自の演奏をするというやり方で知名度を高めていく。
彼らの演奏は京の都で熱狂的な支持を受けるが、河原者一掃を企てる石田三成に目をつけられる。
芝居小屋を破壊され、4人は秀吉の甥の関白秀次の保護を受けることになる。
歴史の中では殺生関白などと悪名高い秀次だが、この話の中では文化に理解を示す善玉として描かれる。
演奏の機会を求め、秀次の元を辞した彼らは、秀次の切腹と一族の処刑を耳にし、再び京に舞い戻る。
秀次の寵姫たちが処刑されていく中、彼らは演奏を始めると、町の雰囲気が変わり始める。
これは面白い小説だった。まず4人のキャラクターが確立されており、ストーリーは単純明快。
時折出てくるギャグもすべってはないし、演奏を聞いた人たちが盛り上がっていく表現は上手い。
桃山時代の話だけど、話中にある「ライブ」とか「リズム」という言葉も違和感はなく、むしろ迫力がある。
もう一つくらい山場を設定していれば、もっと面白くなったと思うし、結末が予想通りなのは少しだけ残念。
それでも十分読み応えはあった。次作もぜひ、読んでみたいと思わせる新人だ。装丁も格好イイ。

桃山ビート・トライブ

桃山ビート・トライブ