累犯障害者

作者:山本譲司|新潮社
政策秘書の給与流用事件を起こし、議員から一転、刑務所暮しを送った元民主党議員によるルポ。
獄中で障害者の世話をして、その数の多さに疑問を持ち、出所後、障害者による事件を調べ始める。
序章では下関駅を放火した犯人について描かれる。福田容疑者は知的障害者で、ほとんどの人生を刑務所で暮らしていた。
福祉から見放され、福田にとって刑務所は、福祉の代替施設となっている。
第一章は浅草で女子短大生を刺殺したレッサーパンダ帽の山口容疑者の話。彼もまた知的障害者だった。
養護学校でいじめに遭い、また、父親も軽度の知的障害者で、山口に激しい暴力を加えていた。
仕事は長続きせず、放浪を繰り返す山口だが、彼もまた頻繁に逮捕され、刑務所に入っていた。
父と兄の面倒を見ているうちに末期がんと診断される妹の話は、可哀相で仕方が無い。
第二章は障害者に近づき、養子縁組をして、障害者年金手帳を取り上げるヤクザを描いている。
ここで喰い物にされている重度の知的障害者も、閉鎖病棟に10年以上も閉じ込められたり、悲惨な境遇を送っていた。
第三章は売春をして施設に入れられる知的障害の女性達を何人か取り上げている。
婦人保護施設の存在は本書ではじめて知った。
入所者に「売春婦」の偏見を与えないため、ヒモなど売春斡旋業者から彼女達を隠すために公にはされないそうだ。
だが、ここに入所している女性達の多くは罪の意識は無い。むしろ健常者と対等意識を持つために積極的に売春をしている。
第四章はろうあ者による不倫殺人事件。「デフ・ファミリー」という耳慣れない言葉がでてくる。
これはろうあ者同士が結婚をして、付き合う相手もろうあ者たちという非常に狭い社会を指している。
ろうあ者とのコミュニケーションは手話を使うが、健常者の手話は、生まれつきのろうあ者にはほとんど伝わっていない。
彼らは手の動き以外の瞬きなどの微妙な動きを組み合わせている。彼らの文法には過去形も未来系も接続詞もない。
また、この事件では不倫相手と容疑者は3ヶ月の間に携帯で1万回以上メールのやり取りをしていた。
携帯の登場がろうあ者のコミュニケーションを一変したが、かれらの内容はかなり幼稚だ。
第五章は手話でろうあ者を脅迫する、ろうあ者による暴力団の話。
ここにも健常者から隔絶されたデフ・コミュニティーの結びつきが暗い影を落としている。
知的障害者とろうあ者による犯罪を取り上げた衝撃的な作品で、なぜマスコミが障害者による犯罪を取り上げないかがよくわかる。
不謹慎な表現になるが、知らない世界を知るという点では好奇心を満たしてくれたし、刺激を受けた。

累犯障害者

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