家、家にあらず

作者：松井今朝子｜集英社文庫
江戸北町奉行同心の娘、瑞江はおばの勧めで、大名の砥部家に奉公に行くことになった。
おばの浦尾は砥部家裏御殿の年寄という最高位の座にあり、身内ということで、厳しくはないと考えていた。
だが、奉公に出た途端、浦尾は知らんぷりで、瑞江は他の下働きと同様の扱いを受ける。
新入りということでイジメを受けるが、持ち前の気の強さで、少しずつ仕事に慣れていく。
一方、砥部家のもう一つの屋敷では、女中が歌舞伎役者と心中し、瑞江の父の伊織が調査を開始する。
ここで「非道、行ずべからず」で強烈な印象を残した女形の荻野沢之丞が登場する。
伊織は沢之丞が何かを知っていると睨み、頻繁に彼の元を訪れる。
奉公の仕事に慣れてきた瑞江は、屋敷内の複雑な人間関係やおかしな行動をとる人に気づく。
先代藩主の側室が行う怪しげな加持祈祷、狂った中老、徘徊する藩主の弟。
やがて、瑞江の屋敷でも不審な自殺と、茶の湯の師匠の刺殺事件が発生する。
男子禁制の女だけのいびつな閉鎖社会の中で、瑞江は密かに事件を調べ始める。
砥部家のお家騒動の匂いを感じ取った伊織は、瑞江の身を案じながら、沢之丞とともに真相に迫る。
女だけが住む屋敷という特異な空間と湿った人間関係を軸にしたミステリーで、面白かった。
ただ、謎ときとしてはイマイチで、その点では「非道、行ずべからず」の方が良い。

家、家にあらず (集英社文庫)