残照

作者:小杉健治|光文社文庫
79歳の徳太郎は、息子夫婦から老人ホームに入ることを勧められ、反発していた。
彼の楽しみは、かつての戦友と旅行に行くことだったが、老齢のため一人の友人が死亡する。
友人は、戦後の日本をダメにした戦犯6人を名指しした、遺書を残していた。
銀行や証券会社、デパートの経営者など、敗戦後の混乱を巧みに乗り切り、現在の成功者たち。
友人は殺し屋を雇い、暗殺計画を立てていた。遺志を継ぎ、徳太郎と4人の老人は処刑に乗り出す。
徳太郎たちは、戦地で理不尽な目に遭い、兵士を見殺しにした高級将校たちを憎んでいた。
最初のターゲットの銀行の頭取を殺害した徳太郎たちは、次のターゲットに狙いを定める。
一方、元銀行員の信人は、頭取殺害の容疑者として、取調べを受け、婚約を解消されてしまう。
刑事の片桐は、信人を疑う警察を尻目に、一人の老人に興味を引かれる。
老人達の犯罪と、冤罪に巻き込まれ、闘う信人、執念の捜査を続ける片桐を描いたミステリー。
戦争中から戦後まで、理不尽な仕打ちに晒される徳太郎達の描写は読み応えがある。
また、突然容疑者となり、生活を失い、偏見と闘う信人の描写も良い。
冒頭の中学生のイジメによる殺人事件も、後半に生きてくる。面白い小説だった。
ただ、徳太郎たちがあまりにも高齢すぎて、仲間が簡単に死ぬところが、あっけなさ過ぎた。
時代設定をもう少し前の昭和にしていれば傑作になったはずだから残念。

残照 (光文社文庫)

残照 (光文社文庫)