摂氏零度の少女

作者:新堂冬樹幻冬舎
女子高生が母親をタリウムで殺害しようとする話で、新堂冬樹の小説の中で一番後味が悪いかもしれない。
名門高校に通い、医学部合格はほぼ確実という成績優秀な涼子は、昆虫と話し、空想の動物を会話する癖があった。
涼子はブログで母親を殺害することを宣言し、母親が晩酌で飲む焼酎に少量ずつタリウムを混ぜ始める。
涼子がなぜ、母親を殺害しようとするのかは終盤まで明かされることはないが、幼い頃にペットの犬が死んだことに原因があった。
小さな出版社で編集者をしている母親の祥子は、タリウムにより体調が悪化し始める。
下痢や嘔吐、大量の抜け毛に、口内炎や関節の激しい痛みに襲われる。
だが、自分の担当している作家の小説が、テレビドラマ化されるかもしれないということで、仕事は休めない。
大事な打ち合わせの席で失態を冒し、ついには家で寝込んでしまう。
涼子は母を心配しているフリをしながら、食べ物や飲み物にタリウムを混入し続ける。
その母の衰弱具合をブログに書き続けるが、姉の京子に発見されてしまう。
母は入院することになったが、涼子の殺意は納まることはなく、隙を見てタリウムを飲ませようとする。
新堂冬樹の小説は鬼畜を扱ったものが多いが、そのベースには欲や復讐などの動機がある。
でもこの作品の涼子は最後まで虚無で、動機が無いところに恐ろしさがある。
「死ぬことが不幸なことなら、どうして神様は、永遠の命を作らなかったんでしょう」
「生きることが幸福なら、どうして神様は、死というものを作ったのでしょう」
原因がわからないまま、七転八倒し、次第に弱っていく祥子の苦しみ方がリアルだし、それを冷静に観察する涼子は不気味だ。
この話は2年前に静岡であった事件をベースにしているのは一目瞭然だが、新堂冬樹にかかると一味違う。
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