花の下にて春死なむ

作者:北森鴻講談社文庫
三軒茶屋のビアバー「香菜里屋」のマスター工藤が、客の持ち寄る謎を解く短編集。
漂白の俳人が死ぬまで身分を明かさなかった謎や、文庫本に挟まれた家族写真の理由。
ホームレスをモチーフにした写真展のポスターが盗まれる訳や、回転寿司でまぐろばかり食べる男など。
取り立てて重大な事件ではなく、客の心にわだかまっている謎を工藤は安楽椅子探偵のように解決していく。
ミステリーとして謎の弱さは否定できないが、会話のテンポと描写は巧みだ。
それともう一つ欠かせないのは、工藤が客に出す料理が美味そうに描かれていることだ。
各話ごとに、こういう素材の料理を食べてみたいなと思わせる巧みさだ。
工藤の料理でこの小説が魅力的なものになっている。
他人からしてみれば他愛の無い謎をさりげなく解答へと導き、でしゃばることはない。
おまけに料理は気が利いていて美味く、目立たない場所にあるから、常連しか集まらない。
こんな店は現実ではほとんど見つからない。だから少し羨ましい気分になる。

花の下にて春死なむ (講談社文庫)

花の下にて春死なむ (講談社文庫)