君たちに明日はない

作者：垣根涼介｜新潮文庫
村上真介はリストラ請負会社に勤める33歳。
企業の依頼で、クビ切りを通告する面接官をしている。
恨まれ、罵声を浴びせられ、泣かれても、淡々と仕事をこなしていた。
建材メーカーの課長代理の陽子にクビを通告した真介だが、なぜか8歳年上のこの女性に惹かれる。
陽子は自分のプロジェクトが片付くまで、会社を辞めることを譲らなかった。
いつしか真介は陽子と付き合うようになるが、相変わらずクビを通告する仕事を続ける。
玩具会社のオタク研究員、高校の同級生だった大手銀行員、自動車メーカーのコンパニオン。
音楽事務所のプロデューサーなど、様々な職種の人たちにクビを告げ、そこで発生するドラマが面白い。
真介と陽子の恋愛ストーリーと、彼らの生い立ちにも多くのエピソードが描かれ、話に厚みを増している。
でも、「あなたはもう会社にとって不要な人となりました」と通告される人たちの心情こそが、この小説のテーマだ。
「なぜ自分が」と会社を恨み、自分に絶望するが、結局は自分の力で立ち直っていく。
今後の日本社会を先取りしたような小説で、暗い気分になるが、実は希望が詰まった小説だ。
「ワイルドソウル」などのハードボイルドのイメージの強い作家だが、この作品で山本周五郎賞を受賞している。

君たちに明日はない (新潮文庫)