リベルタスの寓話

作者:島田荘司講談社
表題作と「クロアチア人の手」の2つの中篇が収録されたミステリー。
いずれもクロアチアボスニアセルビアの民族紛争がベースになっている。
「リベルタスの寓話」はボスニア・ヘルツェゴビナで起きた猟奇殺人事件。
セルビア人の民族主義グループの男達が何者かに殺された。
その死体からは心臓以外の臓器が抜き取られ、虫かごや携帯電話、電球に入れ替えられていた。
この地では、中世の自治都市時代にリベルタスというブリキ人間が政治の指導者の宣託を行うという伝説があった。
NATO犯罪捜査課のキップリング少尉は、御手洗に協力を求めるが、代わりにやってきたのはスウェーデン人の作家だった。
殺害現場には大量のパソコンが破壊されており、屋外の草原に瓶詰めにされた臓器が置かれていた。
作家は御手洗に連絡を取ると、「見つからないモスリム人の腸を探せ」と指示を受ける。
クロアチア人の手」は東京で起きた密室殺人事件を石岡が解決しようとする話。
クロアチア人のイヴァンとセルビア人のドラガンは俳句が趣味で、深川の松尾芭蕉記念館に滞在していた。
二人が泥酔し、眠りについた翌日、ドラガンの部屋で、イヴァンは死体となって見つかる。
ドラガンの部屋は鍵がかかり、完全に密室状態で、イヴァンはピラニアのいる水槽に上半身を突っ込み、水死していた。
右腕が欠損し、顔もピラニアに齧られていた。一方、ドラガンは会館の外で、謎の爆発事故を起こし、死亡していた。
イヴァンはなぜドラガンに殺されたのか、またドラガンはどうやって密室を作ったのか?
ここでも御手洗の鮮やかなアドバイスが決め手となり、事件は解決に向かう。
ミステリーとして十分に面白いが、90年代まで民族同士で殺し合いを続けたこの地域の深刻な歴史が重みを加えている。
民族紛争に巻き込まれる市井の人たちの描写、虐殺の目撃者の告白がリアルで、良い小説だと思った。
それだけに仮想通貨の話は少し余計な感じがして、無くても良かった。

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