ドリームタイム

作者:田口ランディ|文春文庫
おそらく作者の実体験が入り混じった短編集で、不思議な印象を残す作品だった。
この人は精神世界をテーマにした作品がほとんどだが、非常にわかりやすい言葉で書いていると思う。
で、読んでいるうちは、はっとすることが多い。でも、なぜか読み終えた後まで、印象に残ることはない。
恋した女と、公園に佇むピエロとの会話を描いた「ピエロ男」
『私は言語において独自のプログラムを作って、それを記憶したのです』
「シェルター」は、定員のある核戦争後のシェルターにどの職業の人を外すかという会話劇。
『価値のない人間は死んでもいい。その考え方が人類をずっと戦いに追い込んできた。』
「闇の中の女」は第二人格を持つみすぼらしい女と出会う話。
「読書」はサリンを撒いた元オウムの医師を題材にした小説を読む話。
『そもそも執着を捨てて解脱する、という、とてつもない執着にはまっているのはあんたなのだ。』
「肉の花」は乳がんを患った老婆の胸に、綺麗な花を咲かせる不思議な能力を持った少女の話。
『未熟児で生まれてきた子はね、あの世のことをよく覚えているの。』
「ゾンビの写真」はメキシコシティピンホールカメラをつかった写真家の話。
「生け贄」は中国を旅行していた男が、前世の記憶を持つ人たちの村で将来の予言を聞かされる話。
「ウタキの青い蝶」「私に似た人」は沖縄で出会うシャーマンと石の話。
「繭のシールド」は死んだ母親の着物を着ることで、生活に変化が現れる話。
トイレの神様」は自宅の居心地の悪いトイレをシャーマンに相談する話。
「指」は「コンセント」の流れを汲んだ、父親に対する確執を題材にしている。
最終話の「不知火の海」は、かつて恋をしたアングラ劇団の主宰者の霊とともに八代の海で、能を観る話。
一つ一つの話は面白いのだけど、小説なのか、エッセイなのかどっちにもつかない居心地の悪さも感じる。
本作品の中では「生け贄」と「繭のシールド」「肉の花」が面白いと思った。

ドリームタイム (文春文庫)

ドリームタイム (文春文庫)