辰巳屋疑獄

作者:松井今朝子ちくま文庫
今年度直木賞受賞作家だが、作品を読むのは初めて。
18世紀初頭の大坂で、炭問屋を生業とする「辰巳屋」の跡目争いの顛末を描いた作品。
元助は11歳で丁稚として働き始め、苛められながらも、我慢強く、手代の宗兵衛に眼をかけられていた。
辰巳屋の跡取り息子は女癖が悪く、元助の初恋の女性を妾にしてしまう。
三男は学問好きで、思慮もあり、跡目を彼にと考える手代もいたが、結局は長男が店を継ぐ。
三男は木津屋という炭問屋を引き継ぎ、吉兵衛と名乗り、元助もそこに派遣される。
吉兵衛は学問好きが高じて、私塾を作ろうとしていた。資金は実家の辰巳屋の隠居から出ていた。
隠居が死亡し、長男が実権を握ると、木津屋の経営は苦しくなるが、吉兵衛には危機感がない。
そんなとき、長男が胸の病で急逝し、吉兵衛は自分の出番だとしゃしゃりでるようになる。
証文や私文書を偽造し、跡目争いに勝ち、放蕩をし始めた吉兵衛だが、追い出した相手が悪かった。
追い出された商人は、岸和田藩にゆかりのある大商家の唐金屋から派遣された手代だった。
唐金屋は幕府に訴え、吉兵衛には幕府から呼び出しがかかり、江戸に到着して、即日捕縛される。
元助は主人を助けようと、江戸で奔走するが、金を巻き上げられるばかり。
手代460人、家財200万両(現在の2000億円相当)の商家の跡目争いは、やがて武士役人も巻き込み、一大疑獄と発展する。
裁くのは大岡越前守。白洲に引きずり出される吉兵衛と元助。
欲に取り付かれた吉兵衛を醒めた眼で見ながら、主人を見捨てることのできない元助。
厳罰は免れないはずだが、元助の行動が思わぬ裁きへとつながる。
放蕩息子と、義理堅い手代の話なのだが、彼らの行動は現代にも通じる内容で、非常に面白かった。

辰巳屋疑獄 (ちくま文庫)

辰巳屋疑獄 (ちくま文庫)