顔なし子

作者:高田侑|幻冬舎
修司は妻と子を連れ、20年ぶりに群馬の寒村にある実家にUターンする。
実家には年老いた父の和郎が1人で家を守っていた。
修司と和郎の親子には忘れがたく、思い出したくない苦い過去があった。
修司が中学生の時に母が死亡するが、その直後に、セリという美女が桐也という少年を連れ、家を訪れる。
和郎はセリを後妻に迎えようとしていた。あまりにも不釣合いな二人に寒村は騒然となる。
和郎の地主の貫一郎は、セリに横恋慕し、和郎から奪い取ろうとする。
その後、作品ではセリの複雑な生い立ちが描かれ、和郎と再婚する直前に、セリは自殺してしまう。
和郎は桐也を引き取るが、激しい恨みを残し、数年で失踪してしまう。
修司が実家に戻ってすぐに、周囲では不審な事件が発生する。
かつてセリを苛めた女性の家が燃え、老婆が焼死する。
貫一郎の息子の晃一郎が働く林業の現場で事故が発生し、若者が足を失う大怪我を負う。
その後、姿をくらませていた桐也の姿の目撃情報が相次ぎ、ついに晃一郎の娘が殺害される。
村人は桐也を血なまこで探し、和郎と修司は沈黙を守りながら、事態を見守る。
表紙の暗さと、オビに書かれているキャッチほどおどろおどろしい作品ではなく、むしろ社会派ミステリーだ。
血縁と土地に縛られた人々の矮小さ、昭和の後半まで貧乏にあえいでいた田舎の人たち。
なぜそこまで卑屈になることができるのか、もどかしさを感じながらも2世代の親子の生活を描いた大河作品だ。
田舎の閉鎖性に怒りを感させるストーリー展開には上手さを感じたし、結末をすっきりとさせたのもよかった。
デビュー作の「裂けた瞳」はイマイチだったが、「うなぎ鬼」に続いて、より面白い作品だったと思う。

顔なし子

顔なし子