夏の改札口

作者:福澤徹三徳間書店
良質のホラーを発表している作家の、死が身近に迫った人々を描いたサスペンス短編集。
「夕立ち」は酒の飲みすぎで、脂肪肝となり、死を意識した酒場の主人が、自殺しようとする若い女性を救う話。
潰れかけの店には、夢も希望も失った客しか訪れないが、主人が救った女性が店に立つと、華やかになった。
だが、主人には、それが束の間のことと理解しており、やがて、店はいつもの澱んだ店に戻る。
「蛇飼う男」は、自宅に引きこもりとなった若い男の部屋に、蛇が現れる話。
男は父と二人暮しで、口うるさい父の前で、自殺を試みると、父は何も言わなくなった。
冷蔵庫の中に男の食料が減っていることに気づき、男は父を激しく憎み、蛇は父を殺せと言う。
やがて父を殺した男のもとに警察がやってくるが、事件は意外な結末を迎える。
「青空の記憶」は、余命3ヶ月のすい臓がんを宣告された経営者の話。
仕事に打ち込み、家族を省みることなかったため、冷淡な家族。
癌を知った途端に、手のひらを返したように、裏切る部下。経営者の絶望と怒りがストレートに伝わる作品。
「老信者」は認知症の妻を抱えた老人に、親切に近寄ってくるヘルパーとの交流を描いた話。
だが、ヘルパーは霊感商法の手先で、気づいた老人は排除しようとするが、すでに周りを取り込まれていた。
「夏の改札口」は登校拒否になった中学生が、ネットで知り合った自殺志願者と練炭パーティーを行う話。
パーティーに集まった仲間は会社にリストラされた中年や、リストカットを繰り返す太った女性など、年上ばかり。
少年はあっさりと死ぬつもりだったが、パーティー参加者の1人の卑怯な行動が許せなくなる。
「犬死にの旅」は職場ではリストラに怯え、家族にバカにされている冴えない中年サラリーマンの災難を描いている。
会社の命運がかかったプレゼンの日、男は満員の通勤電車の中で、痴漢と間違えられ、必死で逃亡する。
だが、大事なプレゼンの資料は電車の中に残したままだった。「もう死ぬしかない」と男は思い出の温泉を訪れる。
「ベランダの鳩」は、平凡な夫に嫌気が差し、口うるさいマンションの管理組合から攻撃される女性の話。
同じマンションの男性と言葉を交わすことだけが、心の支えとなってきて、だんだんと夫が邪魔になってくる。
いずれも死が迫った緊迫の状況を描いているが、なぜかコミカルに感じる。
ホラーでは無いが、面白い話を描く作家であることを再認識した。そろそろ売れてもおかしくない作家だ。


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