FLY

作者:新野剛志|文春文庫
北九州の高校生の向井は、近所の公園で戸浦という男と知り合う。
彼が、殺人事件で指名手配されているに気づいた向井は警察に通報する。
察知した戸浦は逃亡し、その後、向井は東京に転校する。
4ヵ月後、戸浦は向井の目前で恋人を刺殺し、再び逃亡する。
一方、同じ北九州で歌手を目指していた千恵理は、暴力を振るう父親が邪魔に思っていた。
公園で知り合った戸浦に父親の殺害を依頼し、オーディションを受けるために上京する。
10年以上の月日が流れ、千恵理は有名歌手となり、向井は戸浦を追い続けていた。
東京の高校生の俊介は、末期がんの父親の面倒を見ながら、同級生の祥子と交際していた。
祥子は戸浦の娘で、犯罪者の娘という負い目を持ち、歌手になる夢を諦めていた。
祥子の近くに時々現れる向井に興味を持った俊介は、過去の事件を調べ始める。
事件発生から15年を描いたミステリーで、非常に面白かった。


『誰の手も届かないところまで行ってしまえば、自分は自由になれると信じた。
だが今は、そうならないと知っている。どんなに高いところにいても、心は自由にならない。
もう届くはずはないのに、まだ誰かの手が届くかも知れないと恐れ、もっと高く、もっと高くと汲々として過ごすのだ。
自分は高さを測る能力に欠けているのだろう。』


走り続ける向井の執念と純粋さ、俊介の好奇心と執念と、千恵理の誰も寄せ付けない上昇志向。
600ページの長編だが、ストーリーが純粋に面白く、一気に読めた。傑作だと思う。

FLY (文春文庫)

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