あなたの隣の怪談集

作者:さたなきあ|ワニ文庫
アナグラムのような名前とワニ文庫という読み捨てのような出版社なので、なかなか知られない作家。
でも福澤徹三平山夢明と同じくらい怖くて面白い怪談を書くので、楽しみにしている。
この人の作品には血まみれで、恨めしい顔をした幽霊の描写はほとんど出てこない。
そういうモノを見てしまうのではという恐れを、少し回りくどい表現で話を進めるのが特徴だ。
また、霊体験をしてしまった人を第三者が客観的に観察する話も多く、新しい手法だと思う。
「倉庫街怪話」や「花火見物」「ゴミ屋敷の主」は比較的オーソドックスな怪談だ。
狂気の間に蠢く不気味なモノを見てしまった「ドアを閉めなければ」と「ばんそうこうの子」
「店の窓から」はこの本の中で一番面白い話で、バーの窓から見えるモノを描いた怪談。
友人から雑居ビルのバーに呼び出され、意味の無い話を聞かされてイライラする主人公。
「実はここの窓から10時過ぎに見えるモノを見てもらいたいのだ」と友人。
時刻は10時前。窓からはオフィスビルが見えるが、社員が慌しく帰る準備をしていた。
10時には完全に誰もいなくなった。「そろそろ見えるぞ」という友人。
友人の名前が冗談みたいなのがマイナスだが、窓を隔てて怪異を見るという新しい手法だと思う。
どこかで読んだことや聞いたことがある話がないのが良い。
別の本だが、便器に浮かんだ猫の首や、大阪の地下鉄のトイレの怪談など一風変わっていて面白い。

あなたの隣の怪談集 (ワニ文庫)

あなたの隣の怪談集 (ワニ文庫)