汝の名

作者:明野照葉|中公文庫
麻生陶子は美貌を武器に人材派遣業の社長として成功していた。
彼女の人材派遣は少し変わっていて、人を陥れるための芝居を組むことが多かった。
リストラ候補の中年男性に近づき、ヘッドハンティングを装い、その気になったターゲットが辞表を出す。
で、依頼主の企業から金を取るというやり方で売り上げを伸ばしてきた。
才能のある若い男、財力のある中年男性と計算ずくで付き合ってきた。
陶子には久恵という自閉症の妹がおり、マンションに同居していた。
久恵は製薬会社に勤めていたが、失恋から心を病み、陶子に依存しながら生きてきた。
主人と召使のような関係の二人だが、久恵は陶子に心酔していた。
だが、陶子が新しい恋人を見つけたときから、二人の間に溝ができてしまう。
久恵は陶子に見捨てられるのを恐れ、陶子の食べ物にクスリを混入し、身動きできない状態にしてしまう。
意識が朦朧とした陶子と久恵の関係は逆転し、久恵は積極的に外に出るようになる。
独居老人の財産を目当てに近づき、陶子の名を語り、クスリを盛る。
陶子は必死に脱出しようとするが、久恵に阻まれる。
心を病んだ二人の女性のサスペンス小説で、スリルがあり、とても面白かった。
ストーリー展開も優れているが、陶子と久恵、それと独居老人の孤独を上手く描いている。
この作家はもっと評価されてもおかしくないと思う。