夜想

作者:貫井徳朗|文藝春秋
雪藤は目の前で妻子を交通事故で亡くし、抜け殻のような生活を送っていた。
ある日、遥という女性に偶然出会い、その不思議な能力に癒される。
遥は他人の所持するモノを手にすると、その人の考えが読めるという特殊能力を持っていた。
アルバイトをする喫茶店で、ボランティアのように相談を受ける遥に、雪藤は女神を見出した気分になる。
彼女の能力をより多くの人に広めたいと考えた雪藤は、会社を辞め、遥を中心とした組織作りに乗り出す。
遥の信奉者は徐々に増え、宗教団体のようになる。雪藤は遥が遠い存在になってしまうのを恐れていた。
遥は人並みはずれた美貌の持ち主で、アイドル扱いをする野次馬も集まるようになった。
組織の中で、自分を悪くいっている者がいるのではと疑心暗鬼となり、雪藤は盗聴をはじめる。
そんな雪藤を遥は信頼し、好意を寄せているが、雪藤はあくまで遥を崇拝の対象と捉えていた。
一方、地方都市で娘と二人暮しをしている嘉子は、家出をした娘を探すために上京する。
この嘉子という女性がかなり電波が入っていて、周囲に対する呪詛が話を盛り上げている。
遥を中心にした組織は大きくなり、講演会を企画するまでに至るが、その講演会の終盤で悲劇が起きる。
その後の雪藤の壊れ方と、嘉子のイカれ方は悲惨で、名作「慟哭」を髣髴させる。
ただ、雪藤が嫌な奴だ思っていた人物が、実は理解者であり、最後に期待を持たせる結末は良い。
この作家は面白い作品が多いが、魂の救済をテーマにした本作は代表作になると思う。

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