邪な囁き

作者:大石圭角川ホラー文庫
主人公の正田は、幼い頃から自分の中から聞こえる邪悪な声に悩まされていた。
「こんなことをしたら、みんなが困るぞ。」
「こんなことをしたら、大勢の人を嘆き悲しませることができるぞ。」
「こういうふうにすれば、誰にも知られずに悪事を働くことができるぞ。」
自分にとっては何の得にもならないのに、その声に逆らえない正田。
赤ん坊のベビーカーをどこかに隠したり、年賀状が配られる時期に、ポストに墨汁を流し込んだり。
せこい犯罪を繰り返していたが、いつしか人を殺すことまで手を染める。
マンションの屋上からコンクリートを放り投げ、会社帰りのOLをホームから突き落とす。
犯罪は発覚しないまま、正田は航空機のパイロットとなる。
表向きは好青年を装い、そつなく仕事をこなすが、相変わらず細かな悪事を繰り返す。
だが、売春婦の李花と出会い、同棲することで、正田には邪悪な声が聞こえなくなった。
李花は、以前に正田がホームに突き落としたOLの娘だった。
幸せな生活を送る二人だが、正田には押し込められた邪悪な考えが突き上げ、爆発寸前になっていた。
自分の操縦する飛行機で、東京の市街地に特攻し、何万人もの人を殺したい。
一方李花は、正田が過去に手を染めた犯罪をスクラップにしていることを発見し、不信感を抱く。
心を病んだ男を描くのは相変わらず上手い。話も面白い。
でも大石圭の作品は傑作となるには何か足りない。

邪な囁き (角川ホラー文庫)

邪な囁き (角川ホラー文庫)