天狗争乱

作者:吉村昭新潮文庫
幕末の水戸天狗党の行動を描いた歴史小説大佛次郎賞受賞作で読み応えがあった。
尊皇攘夷で湧く日本の中でも、水戸の藩士大老井伊直弼を殺害するほど、過激だった。
水戸藩は幕府に睨まれないよう、攘夷派を追い落とし、守旧派が地位を握った。
攘夷派の若きリーダーの藤田小四郎は、田丸稲右衛門を大将に据え、筑波山で挙兵をする。
近隣の藩が討伐に乗り出すが、天狗党は訓練されており、追討軍を追い払う。
だが、天狗党の若手の田中源蔵が率いる一隊は、近隣の住民を殺害し、逆賊の印象が広まる。
幕府が指揮する討伐軍を夜襲で追い払った天狗党だったが、逆賊の印象は拭えない。
水戸藩主は、支藩の松平頼徳を名代とし、水戸藩の騒乱を鎮めるための兵を差し向ける。
この軍に加わっていたのが、攘夷派の重鎮家老の武田耕雲斎と軍師の山国兵部だった。
守旧派に攻撃を加える松平頼徳に天狗党が助勢し、いつしか賊軍の汚名を着せられる。
水戸は農民も巻き込んで内乱状態になるが、松平頼徳が守旧派に囚われ、斬首され、沈静化する。
武田耕雲斎は、天狗党を併合し、北に向けて脱出する。福島県に入り、東に方向を変える。
一方、天狗党を追放された田中源蔵の隊は、茨城県の北部で全滅し、悲惨な末路を迎える。
千名ほどの兵で、高崎藩や松本藩を打ち破り、京を目指す天狗党
一橋慶喜なら、自分達の行動をわかってくれるという信念で、西進する。
京入りまで、僅かというところで立ちはだかったのは一橋慶喜だった。
西に逃れようという隊員を説き伏せ、武田耕雲斎は降伏を決意する。
統率のとれた天狗党に感銘を受けた加賀藩の大将の永原は、彼らを救おうと奔走する。
だが、一橋慶喜は保身のため、彼らを処刑することに合意する。
加賀藩の手厚い保護から一転し、天狗党の一党は悪臭漂う鰊蔵に押し込められ、処刑が始まる。
ほとんどの隊員は申し開きもできないまま、斬首され、生き残ったのは未成年を含む100名弱だった。
あまり知られていない幕末の虐殺を、救いようのない悲惨さで描いていた力作。
以前から読もうと思っていたが、すっかり忘れていた作品。こんなに面白かったとは。

天狗争乱 (新潮文庫)

天狗争乱 (新潮文庫)