土俵を走る殺意

作者:小杉健治|光文社文庫
昭和42年、東京の両国国技館の近くで、初老の男性の死体が発見される。
同じ時期、大関の大龍が横綱に推挙されるが、辞退するという前代未聞の事態が発生する。
新聞記者の漆原は、殺人事件と大龍に何らかの関係があると見て調査を開始する。
時代は遡り、昭和36年、秋田の田舎の奉納相撲で、元刑事の村尾は、不思議な技を持つ少年を発見する。
村尾には、誘拐殺人事件の重要参考人を取り逃がした過去があり、その男は元力士だった。
大輔という少年の才能を見抜いた村尾は、旭川部屋に弟子入りさせる。
東京オリンピック開幕前のこの時期、中卒者は金の卵として、どんどん上京していた。
大輔の同級生も上京するが、劣悪な環境で働かされる。
陽の当たる場所を突き進む大輔と対照的に転落の一途をたどる武男と由子。
ガンに冒された村尾の執念と、山谷の労働環境問題など、かなり読み応えがあった。
殺された男は何をしたのか、大龍は何故横綱昇進を辞退したのか、結末で明らかになる。
ミステリーとしても非常に面白かった。これは20年以上前に書かれた作品だが、今読んでも面白い。
タイトルがイマイチだが、読んで損は無い一級品。

土俵を走る殺意 (光文社文庫)

土俵を走る殺意 (光文社文庫)