迎え火の山

作者:熊谷達也講談社文庫
東北地方の厳しい自然に生きる人たちを描いてきた作者にとっては異色の作品。
伝奇ミステリーといえばいいのだろうか?作風は違うが、これはこれで面白い。
フリーライターの工藤が、即身仏の取材のため故郷の山形県朝日村に里帰りするところから話は始まる。
地元の役場に勤める幼馴染の土谷は村おこしのため、旧盆に古来の「採燈祭」を復活させようとしていた。
霊峰月山のふもとから頂まで、火を点し、死者の霊を迎えようとする祭だった。
そこに二人の幼馴染で、霊能力者となった由香が現れ、祭を中止させようとする。
「鬼となった死霊が死者の霊に混じって降りてくる」ので大変なことになるという。
実際に工藤の父や、土谷の祖母は死霊に襲われ、土谷自身も山中で不思議な体験をする。
工藤は由香に導かれるままに、霊が見える資質を目覚めさせる。
祭の開催を中止できないのなら、山中で死霊を食い止めようと、工藤と由香は月山に登る。
シリアスな作品を書いてきた作者にしては、荒唐無稽な話だと思う。
だが、歴史上で封印されてきた怨霊などの薀蓄の披露は、単純に興味深かった。
主人公の工藤が死霊が見えるようになった描写はかなりリアルで、怪談に近い。
何より、死霊と山中で対面するクライマックスでの、どんでん返しが鮮やか。
裏切られたような気分になるが、こういう展開の小説はあまりお目にかからない。
後味は確かに良くないが、謎は全て明らかにされるので、すっきりする。

迎え火の山 (講談社文庫)

迎え火の山 (講談社文庫)